2018年度 中小企業・小規模事業者に関する政策と税制についての「国への要望書」

2018年07月18日 ティグレ連合会

はじめに

 わが国は、人口減少、少子高齢化、国内外の競争の激化、地域経済の低迷等の構造変化に直面しており、これらの構造変化は、地域の経済・雇用を支える小規模企業に大きな影響をもたらしており、中小企業・小規模事業者は難しい対応を迫られています。2014年6月に小規模企業の持続的な発展を図ることを定めた「小規模企業振興基本法」が制定され、同年「小規模企業振興基本計画5ヵ年計画」が閣議決定され来年、最終年を迎えます。わが国の企業数は年々減少傾向にあり、2009年から小規模事業者は約41万者減少しています。各種個別対応では難しい時代を迎えています。私どもは、中小企業・小規模事業者にとって「税制、社会保障、雇用」が三位一体となって機能する新たな「5ヵ年計画」の策定とその実施を求めます。そして、以下の各項目の検討とその実施を強く求めます。

1.納税者権利憲章の制定と全員確定申告制度について(財務省)

 国民が自主的に確定申告する申告納税制度のもとでは、国民の納税義務の円滑な履行及び税務行政の適正な執行が必要であり、納税者の協力が不可欠です。そのためには「法に定められた諸権利」が尊重されたうえで税務行政が行わなければなりません。主権者たる納税者の権利保障と税務行政の公正な執行のために「納税者権利憲章」の早急な制定を求めます。そして年末調整制度によって申告権を奪われている給与所得者に「納税者主権」の立場から概算経費率と実額経費控除の選択制の確定申告権を認めるように強く求めるものです。納税を実感することは民主主義の原点であり、納税者意識を喚起するためにも全員確定申告制の実現を強く求めます。

 また、同様の観点から「応能負担の原則」や「生活費非課税の原則」など国民の諸権利を守り、現行の個人事業主に対する不公平を是正するために「青色申告控除」の拡大や「事業専従者退職金」の必要経費算入を求めます。

2.消費税について(財務省)

 消費税は中小企業・小規模事業者には厳しい制度・税制であるため、現行の単一税率を維持し、消費税「改正」にあたっては適切な配慮を求めます。

 特に消費税増税は景気に悪影響を与えるものなので景気が上向かないかぎり税率は据え置くよう求めます。また、軽減税率とインボイス導入は事業者に負担を強いるものなので慎重に検討し、仮に導入する場合はすべての事業者が取引などから排除されないよう制度設計を行うとともに、負担増を考慮して補助金等の枠を増やすなどの対策を求めます。

3.相続税について(財務省)

 昨年度の税制改正において10年間の特例措置として①猶予対象の株式の制限(総株式数の3分の2まで)を撤廃、②納税猶予割合を80%→100%に引き上げ、③雇用確保要件を弾力化、④最大3名の後継者に対する贈与・相続にも対象拡大など、私共の要望に沿った改正が行われましたが、事業承継の立案・実行には長期間を要することから、10年の期間設定は撤廃し恒久的制度として位置付けるよう求めるものです。

4.所得税について(財務省)

 基礎控除、扶養控除の一層の引き上げを求めます。また、国内における労働人口が減少するなか、外国人労働者の積極的受け入れは必然ですが、障害となっているのが扶養要件の厳格化です。昨年、この扶養要件の緩和を求めたところ、「国外居住親族に係る扶養控除等の適用について」と題したリーフレットの改定が行われましたが、扶養要件の緩和は行われておらず、引き続き緩和を求めるものです。

5.建設業における社会保険の「強制加入」の見直しを(国土交通省・厚生労働省)

 建設業における社会保険問題が建設業を生業とする中小企業・小規模事業者にとって大きな問題となっています。建設業を管轄する国土交通省は国の直轄工事に社会保険加入を要件とするなど、社会保険加入を促す取り組みを進めています。2016年には「社会保険の加入に関する下請け指導ガイドライン」が発表されています。この「ガイドライン」は「建設業における社会保険の加入について、元請企業及び下請企業がそれぞれ負うべき役割と責任を明確にする」と建設企業の取組の指針を目指していますが、指針と実態に乖離が生じています。「法定福利費の適正な確保」が明記されていますが、下請負人の見積書に法定福利費相当額が明示されているのにもかかわらず、元請負人がこれを尊重せず、法定福利費相当額を一方的に削減したり等の元請負人の建設業法違反まがいの実態があります。建設業における社会保険問題は中小企業・小規模事業者にしわ寄せが来ているのは紛れも無い事実です。昨年の本要望書提出以降そういった実態は減少していますが、引き続き大手ゼネコンをはじめ元請負人への徹底した行政指導を国土交通省に求めます。

 また公正取引委員会の方でも、「下請代金支払遅延等防止法」(通称「下請法)の親事業者の禁止行為である、いわゆる「買いたたき」の取り締まりを一層強化して頂き、下請け業者の法定福利費が確保されるよう求めます。社会保険問題は「社会保障と税の一体改革」という国の財政政策を含む将来の制度設計に基づいた政策の中で解決されるべきものと考えます。政府が進めています建設業における社会保険未加入対策は「制度だけが先行」しています。建設業関係団体とのきめ細かい連携の中で進めることを求めます。

6.マイナンバー制度について(総務省)

 マイナンバーカードの交付枚数は平成30年3月31日現在で全人口の10.7%(平成29年度約8%)に留まっています。また、2017年からスタート予定の「マイナポータル」計画も大幅に遅れています。これらが相まって、マイナンバー制度に対し、国民の多くは、「不正利用により被害に遭うおそれ」「情報漏洩によりプライバシーが侵害されるおそれ」が心配であるとしています。漏洩などの被害にあっても、救済措置の規定がないため、被害者は自ら裁判を提起するか、泣き寝入りするかのいずれかしかないのです。当初予定より大幅に遅れているマイナンバー制度の正しい情報の開示と「被害救済の仕組み」等を含めたマイナンバー制度及び個人情報保護法の見直しを求めます。

 また、このような状況であるにもかかわらず、各種社会保険の手続きにおいて、マイナンバーの記入が無いことを理由として申請書類等の返却が行われていますが、実態に即した適正な対応を求めます。

7.個人保証に依存しない融資制度について(経済産業省)

 2018年1月26日、経済産業省は「経営者保証に関するガイドライン」(略称「経営者保証ガイドライン」)Q&Aが一部改訂され、財務データだけに捉われず、対話や相談等を通して情報を収集し事業内容や持続・成長可能性などを含む事業性を適切に評価することが望ましいことを明確化しました。対象債権者や債務者に対してもこの趣旨に添った対応をするよう促しています。しかしながら、このこの趣旨に添った融資は微増にとどまっており、経済産業省によるなお一層強力な指導が求められています。なおまた、個人保証に依存しない、連帯保証人の見直しを含めた中小企業金融の確立を求めるものです。

8.IT導入支援事業の継続について(経済産業省)

 中小企業・小規模事業者にとってIT導入の成否は今日、死活問題と言っても過言ではありません。経済産業省は、2017年度第二次補正予算において、100億円のIT導入補助金を要求し、「小規模事業者持続化補助金」としてIT導入事業を実施されています。対象となる事業の一つに「新たなる販促用PR」(ウェブサイトでの広告)があり、昨年度より一件50万円(上限)のHP作成に資する補助金を交付されています。この事業は大いに活用されていますが、引き続き事業実施を求めるとともに、補助金額の増額とHP立ち上げ以降の運営に対する補助を新たに設けるよう求めるものです。

9.外国人「財」の活躍できる社会をめざして(厚生労働省・法務省)

 日本商工会議所が提唱する「中間技能人材(仮称)」の新たな在留資格の速やかな創設を求めます。特に日本が誇る「公衆衛生」を世界に広げ、さらに丁寧な接客も含めた〝おもてなし〟を学び、自国の発展に貢献していただくため、ファッション・理美容分野への技能実習生の受入れを早期に承認するよう求めます。

 また、増え続ける外国人観光客への「クールジャパン」や「インバウンド」の観点からの国家戦略特区申請については、積極的な規制緩和により早期実現を求めるものです。

10.労災保険の「第4種特別加入制度」創設について(厚生労働省)

 労災保険は本来、労働者の災害補償を行うものですが、労働者と変わらない労働実態の小規模事業者、自営業者やその家族、さらに海外派遣労働者へと特別加入制度が広がってきた経緯があります。現在、労災保険制度には3種類の特別加入制度があります。「第1種特別加入」は従業員を雇っている中小企業の経営者や家族が対象です。「第2種特別加入」は建設業などの「一人親方」や農業などの「特定作業従事者」が対象です。「第3種特別加入」は海外のテロ事件を契機に海外派遣労働者を対象につくられました。しかし、製造業や飲食業などの一般的な業種で、家族のみで事業をおこなっている事業所では労災保険に入れないのが実情です。

 業種にかかわりなく、事業を行う者が誰でも入れる「第4種特別加入制度」を創設するよう求めます。

11.地方の過疎化対策に資する中小企業・小規模事業の振興について(内閣府)

 地方では過疎化が深刻な問題となっており、若者の第一次・第二次産業離れも加速していく一方です。若者の地方からの流出を防ぎ、都市部から移住者を受け入れる対策等を国と地方が互いに協力して取り組むことを求めます。

 先人たちが築き上げてきた素晴らしい伝統、文化、産業を承継する若者がいなくては今後の地方の存続はありません。また、地方における、いわゆる「空き家問題」も深刻な状況です。空き家の除去費の補助とその後の固定資産税の増額抑制などを含め、早急に国を挙げて中小企業・小規模事業者の振興と連携及び地域コミュニティーの形成とブランド化を軸とした地方再生プロジェクトを立ち上げ地方の活性化を図るべきだと考えます。都市部に限った経済発展は持続しません。地方とともに日本を盛り上げていく持続的な取り組みを求めます。

12.休眠預金活用法の速やかなる活用を求めます(内閣府・金融庁)

 2018年1月に施行された「民間公益活動を推進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律」により、限定された三分野(福祉・健康増進・地方活性化)の社会事業への活用が可能となっていますが、とりわけ、障がい者、子ども、高齢者、震災被害者が共に集う地域コミュニティー(共生社会の実現)事業を実施するNPO法人や、地域コミュニティーを支え、地域の社会的課題の解決・改善に取り組んでいる様々な事業体への速やかなる助成交付及び貸付を求めます。

13.各行政に対する手続きの簡素化及び支援について

 中小企業・小規模事業者にとって、行政への手続きは高度な知識と多大なる労力を要します。事業者自ら行うには限界があり、事務員を雇用するか専門家に依頼しなければ、時間的にも知識的にも出来ないのが現状です。現在、省庁毎に「生産性を阻害する行政手続きの簡素化」を図っていますが、部分的な改善であり、行政側が簡素化するためのシステムのように見受けられます。事業者の立場に立った「総合的な手続きの簡素化」を進めていくことを要望します。

 また、手続きに伴う経費の補助や知識の向上に対する支援、取組に対する補助金等の導入も併せて求めます。中小企業・小規模事業者がレベルアップし、手続きが円滑に進む環境を求めます。

14.「大阪北部地震」及び「平成307月豪雨」に対する緊急支援を求めます(国土交通省・経済産業省・金融庁)

 平成30年6月18日に発生した「大阪北部地震」により高槻市・茨木市・吹田市・枚方市等を中心に大きな被害が発生しました。また、7月5日から降り始めた「平成30年7月豪雨」では、九州北部から岐阜県にかけた西日本全域で死者行方不明者200名を超す被害をもたらしています。

 そのため、政府がこれらの被災者に対する緊急かつ迅速な生活支援に取り組むよう強く求めます。特に大きな被害を受けている住宅の復旧への支援に全力を尽くすよう求めます。

 また、これらの災害により、直接の被災地に限らず、多くの中小企業・小規模事業者の経営実態に応じ、緊急融資をはじめとする経営支援に取り組むよう求めます。