2022年度 中小企業・小規模事業者の存続と発展を目指して 「国への要望書」
2022年08月01日 ティグレ連合会
目次
Ⅰ.はじめに
ティグレは、中小企業・小規模事業者とそこで働く従業員、家族の「いのちとくらしを守る」を理念とし、「平和・人権・環境」を大切にした真に豊かな活力のある社会の発展に寄与することを目的に1973年に創立したあらゆる業種の事業者が集う全国約3万者の組織です。
2月24日から始まったロシアによるウクライナ侵攻は、世界に台頭してきた自国中心主義の表れであり、国際社会はロシアに対して経済制裁とウクライナへの武器供与に終始し、停戦の実現を目指しているようには思えません。今こそ日本が即時停戦に向けた和平外交を積極的かつ強力に展開することを求めます。
2019年12月に発生した新型コロナウイルス感染症も2年半が過ぎる中、まだまだ終息のみえない不安な毎日が続いています。この間、今までに経験したことのない多くの支援策によって中小企業、小規模事業者は助けられてきました。しかし、長期化により経営が非常に厳しい事業者もいます。実態の把握とこれからの支援を必要とする事業者へのきめ細やかで即効性のある支援の実施を求めます。
6月7日に発表された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」にある中小企業・小規模事業者に関する記載事項はどれも共感するところです。しかし、大企業の経営者の中には、中小企業・小規模事業者が日本経済発展の足かせであり、「賃上げできない企業は廃業へ」と発言されている方もいます。10年以上にわたり大企業が雇用を減少させる中、その受け皿となってきたのは中小企業・小規模事業者やフリーランスです。雇用を減らし分配を怠ってきた大企業は今こそ中小企業・小規模事業者に対し「分配はコストではなく持続可能な成長への投資」として適正な分配を行うよう各行政機関が、厳しい視線で監視することを求めます。
また、グランドデザインにある官と民の連携強化は今後の日本経済発展にとって重要なことと承知しています。しかし、民の多くは営利を目的とした組織であり、収益第一の価値観で運営されているため事業復活支援金等の申請において多くの課題が起こっています。民を介した行政サービスについては、丸投げするのではなく常に実態の把握と指導を行い、公正で公平な国民に優しい行政サービスが実施されることを求めます。
最後になりますが、円安、原油高等による金利上昇圧力が高まってきているように実感いたします。事業資金のみならず住宅ローン等借入金の金利上昇は、事業者、国民にとって大打撃を与えるものであり、慎重に判断されることを要望いたします。
Ⅱ.申告納税制度に関する要望
1.納税者権利憲章の制定を求めます。
令和4年度税制改正における納税環境整備にありますように納税者の義務が法律に明記される状況が続いております。
そもそも納税者の権利についての明文規定がない中、納税者の義務だけが明記されることは納税者の権利が認められているとは言い難いと考えます。いち早く納税者権利憲章を制定し主権者としての立場を明確にすべきと考えます。
わが国の申告納税制度は、納税者が税法に基づいて自分で税額を算出した申告書を税務署に提出することで納税義務を確定させることであり、税務行政の適正な執行とともに納税者の協力が不可欠です。そのためには「法に定められた納税者の権利」が尊重されたうえで税務行政が行われなければなりません。
主権者たる納税者の権利保障と税務行政の適正な執行のために「納税者権利憲章」の早急な制定を求めます。その制定においては納税者の権利を守るために次の3点を盛り込むことを強く求めます。
1)主権者たる納税者を善良なる者として取り扱われるものであること
2)納税者が自己について国が保有している情報の開示を求める権利があること
3)独立した第三者機関での公正な権利救済がなされること
(国税不服審判所が設置されているが、大多数は国税職員が占めており独立した第三者機関とは言い難いこと)
2.記帳義務を適正に履行できない納税者等への対応策を求めます。
令和4年度税制改正で所得税及び法人税の税務調査において、証拠書類を提示せずに簿外経費を主張する納税者などへの対応策として、必要経費不算入・損金不算入の措置が講じられました。
今回の改正についてはその適用において、各事業者の経営環境を踏まえた柔軟な対応を要望いたします。その上で事務が困難な事業者に対しては今後も記帳指導の実施等で適正化を図る取組みの支援及び、必要な場合は申告納税制度が掲げてきた「所得課税」における推計課税での対応を求めます。
3.消費税の軽減税率を廃止し税率を5%にすることを求めます。
事務負担が多大な軽減税率を廃止し、単一税率に戻し負担を軽減させることは税の簡素化と徴収コストの低減にも寄与すると考えます。また当面の間、消費税率を5%に戻すことを要望いたします。
国税庁が発表した2020年度末の国税滞納残高(8,286億円)のうち実に39%が消費税の滞納(3,245億円)となっています。消費税の滞納残高には年率9%近くの延滞税が課され、税金債務が増えていく状況です。これらの滞納税額があると銀行からの融資は困難となり、事業継続に大きな支障となってしまいます。
さらに国税庁による令和3年4月16日発表の令和2年4月30日に施行された「納税の猶予制度の特例」によると令和2年4月から令和3年2月の税目別の特例猶予の適用件数457,363件のうち「消費税及び地方消費税」は全体の56%にあたる256,048件が特例猶予され、適用税額は全税目1,517,647百万円のうち「消費税及び地方消費税」は全体の59.7%にあたる905,942百万円が猶予されています。
次に令和4年1月25日発表の「納税の猶予制度の特例」の適用後の状況によると特例猶予の適用額1,477,742百万円に対し完結された額は1,336,858百万円(90.5%)であり、残りの140,884百万円は既存の猶予制度を適用したり、納税を相談中であります。この既存制度適用・納税相談中の額のうち「消費税及び地方消費税」が占める額は109,505百万円(80.5%)であります。コロナ感染拡大の影響により事業活動に多大なマイナス効果が発生し、課税事業者にとってはさらに深刻な状況となっていることが示されています。
不足財源は、法人税・所得税の税率改定等を行い、財政支出の無駄を省くことで対応していただきたいと考えます。企業が内部留保をため込み、高額所得者への様々な税制上の恩恵は社会に還元されているとは言えません。今、中小企業・小規模事業者は事業活動や生活が困窮していっており、今後さらに苦しむことが予想されます。事業での利益率が低い事業者にとって税率10%の消費税は非常に重たいものになっています。税の再配分で社会の相互扶助を実現できるような税制にしていただきたいと思います。
4.インボイス制度の凍結・廃止を求めます。
中小企業・小規模事業者の中には取引先や消費者との関係に配慮し、消費税を正しく転嫁できない状況で事業を行っている者がいます。その中で今後、免税事業者が取引先に値引きを求められたり、取引から排除されるような事態が予想されます。確かに請求書等の書類上は、消費税を受け取っているようになっていますが、実際はその分の単価を減額され税込みの総額は変わらない状況が多いと言えます。実際、今年の確定申告時に「また単価の減額を言われた」との話をされた事業者がいました。消費税が民間取引の経済活動に悪影響をあたえるものであり大きな問題です。コロナ感染拡大の経済的影響が続き、経済活動が不透明な現状においてはインボイス制度の凍結を強く求めます。
適格請求書は課税事業者しか発行できないため、建設業や鉄工所などの一人親方、近年増加したフリーランスなど年間売上1,000万円以下の免税事業者は、課税事業者となって消費税を納めるか、あるいは商品やサービスの価格を消費税分下げなければ取引ができなくなる可能性が強まります。それは経済的にも事務的にも膨大な負担を強いることになるのは必至で、小規模事業者にとっては事業継続の瀬戸際に追い込まれるケースが出てくると予想されます。そもそも国内で事業者が行う取引は、課税事業者であろうと免税事業者であろうと原則消費税を含めた金額で取引しています。
税制改革法10条2項には、消費税の「本質的な課税標準」はあくまで「課税売上額から課税仕入額を差し引いた金額」(付加価値額)であるとしています。これは仕入税額控除をしなければならないと規定しているのです。であるにも関わらずインボイス登録事業者でない者との取引は仕入税額控除できないのはおかしいと考えます。これらを踏まえインボイス制度の廃止を求めます。
また平成21年消費税申告処理・状況表(国税庁)、平成22年国勢調査(総務省)及び国税庁特別集計(平成21年)により推計した資料によると、全事業者数に占める免税事業者数は法人・個人合わせて推計で59.3%であるが、その免税事業者が事業によって取引していると推計される課税売上高は全体の課税売上高のわずか1.7%であります。税を公平に徴収し、納税をきちんとしてもらうということでは、これらの免税事業者がインボイス制度も含めた税制に対応して納税することは必要なことかもしれませんが、事業基盤・生活基盤が脆弱な免税事業者にとっては今後死活問題とならざるを得ないといえます。課税売上1,000万円以下の免税事業者は益税部分が所得になり不公平であるとの意見があることは十分承知しているところでありますが、この益税がなければ生活ができないことも事実であります。ただし、所得に加算された部分に消費税は課税されておりませんが、所得税や法人税は課税されており、世間で噂されている「益税には税金が掛かっていない」訳ではありません。
消費税は導入以来、小規模事業者の納税事務の負担に配慮してきました(免税点制度・簡易課税制度など)。しかし今回のインボイス制度はこの納税事務負担の配慮を全く無視したものであり、制度導入による取引先との交渉・確認など精神的負担や事業継続の可否を検討しなければならない苦悩など事業者に与える悪影響が多すぎます。さらに取引先との事業継続のため課税事業者となり新たに納税事業者となる小規模事業者は利益・所得の減少が予想され、生活困難者となる可能性があります。またインボイス登録事業者となる事務処理から始まり、インボイス書式の変更、取引先とのやり取り・確認作業、帳簿記載事項の追加、確定申告時の計算の煩雑さなど事務作業の負担の増加は計り知れません。現状、廃止が困難であるならば、この予想されていることを踏まえ、適格請求書等を全国的に数種類の様式に統一し、AIを活用したスキャンや自動読み取りなど事務の簡素化につながる法的な整備を進めるよう求めます。
また、経過措置のみなし仕入れ(80%)を恒久的措置への移行を求める意見があることも伝えさせていただきます。以上のようなことからこれらのことが解決できるまでの凍結を求めます。
5.所得税の所得再分配機能を強化させる税制を求めます。
1)累進課税を強化すること
2)分離課税制度を廃止し総合課税へ一本化すること
3)居住用財産など生活関連資産の譲渡等への柔軟な対応を行うこと
4)人的控除の拡大により課税最低限を引上げること
6.年末調整制度の廃止と全員確定申告制度の導入を求めます。
年末調整制度は、事業者が従業員の納税について計算や納税作業を代行しておこなうため給与所得者は税制度への関心や理解が薄くなりがちです。納税者が、自らの納税について理解することは不可欠です。平成11年の徴税コストは100円当たり1.78円ということです。源泉徴収による年末調整制度が徴税に大きく貢献しているとは思いますが、中小企業・小規模事業者にとって年末調整事務のコストは小さなものではありません。
納税者の正しい税知識の醸成のためにも、また、中小企業・小規模事業者の事務、経費負担の軽減のためにも、年末調整を廃止し全員確定申告制度を求めます。
7.納税環境の整備(税務調査における事前通知の改善)を求めます。
平成23年に国税通則法が改正され、「税務調査を開始する時の事前通知」と「処分の理由付記」が義務付けされましたが、納税者への「事前通知」は口頭とされています。
納税者にとって口頭通知は突然であり心の準備も出来ていない状況です。調査経験の有無にかかわらず、口頭だけでの通知では十分に理解することが困難なことから「文書」での事前通知の徹底と無予告時の税務調査において「事前通知」を行わなかった理由の開示が常に行われることを求めます。
8.電子帳簿等保存制度の対応困難者への配慮を求めます。
令和4年1月施行の改正電子帳簿保存法について、2年の猶予期間が設けられましたが経理業務の電子化が困難な事業者に対する処置として猶予期間の延長ではなく紙出力での保存の容認を求めます。
小規模事業者のほとんどは経理事務担当者を雇う余裕はなく、事業者本人が経理事務を含めすべての事業活動を行っています。電子化の流れは国の政策であり、社会の流れであることは理解しておりますが、対応の困難な事業者が現実にはたくさんいることを配慮した施策の実施を求めます。
Ⅲ.労働と社会保険制度に関する要望
9.雇用調整助成金の「新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例」の延長を求めます。
令和2年4月から行われている「特例措置」は新型コロナウイルス感染症の影響を受ける中小企業・小規模事業者の雇用維持に大いに役立ってきました。現在、令和4年6月(9月)までの特例延長が決定していますが、ここにきて原材料の高騰等新型コロナウイルス感染症以外の影響も鑑みて特例措置のさらなる延長を求めます。また、新型コロナウイルス感染症により特に被害を受けた飲食店等については引き続き特例措置の延長を要望します。
10.労働保険、社会保険の保険料の算定期間を1〜12月の暦年とし、算定の対象とする賃金から通勤手当を除き、公平で簡素な制度にすることを求めます。
社会保険料の定時決定(算定基礎届)は、4月から6月の報酬で保険料が決定され、その後に固定的賃金の変動があり、2等級以上の標準報酬月額の変更があった際にはその度に随時改定の届け出をしなければなりません。定時決定の算定期間が3か月の平均であることから公平に標準報酬月額が決定されているとは言えず、また固定的賃金や所定労働時間が変わる度に随時改定の届け出の要否を検討することは、事業主にとって煩雑な事務負担となっており、煩雑さ故にルール通りに運用できていないケースが多くあります。
また、労働保険料は4月から翌年3月、社会保険料は4月から6月、所得税の年末調整は1月から12月とバラバラの算定期間によって、それぞれの保険料や源泉徴収税額を計算することになっています。これらの計算期間の違いが、事業者にとって大きな事務負担に繋がっています。
さらに通勤手当について、社会保険料及び労働保険料はその算定の対象賃金に含めるのに対して、源泉所得税の計算では原則非課税として給与金額に含めません。通勤手当は、厚生年金法第3条第3項の「労働の対償として受けるもの」ではないと解されます。その根拠は以下の点からも明らかです。
☆ 所得税法では実費弁済的なものであるから非課税としている
☆ 昭和27年厚生省の疑義解釈において「通勤手当は生活費の一部から報酬であると解する」としているが実費弁済とする所得税法との解釈に矛盾がある。
☆ 過去にも国会の委員会で何度も取り上げられているが、保険料収入の減少を理由に結論を出していない
☆ 出張旅費や赴任旅費、作業衣、制服等は実費弁済的なものとして報酬に含まれない
☆ 在宅勤務者が自宅勤務の日に一時的・臨時的に出社した場合の通勤費は算定対象にならない
源泉所得税と社会保険・労働保険料の計算期間及び計算対象報酬を合せることにより事業主から統一したフォーマットの賃金報告書類の提出を受けて、国が一括して源泉所得税、社会保険・労働保険料を計算し、徴収・付加する方式に変更することを求めます。
このことにより、雇用主および当該官庁の事務的負担を大幅に軽減することができます。
11.労災第2種特別加入の対象拡大と第1種特別加入との合併及び、加入団体・事務委託制度以外の簡易な加入手続き制度の創設と一人親方への報奨金制度の導入を求めます。
現在の労災の事業主の特別加入制度は、第1種特別加入に加入していても従業員がいなくなると第2種特別加入に変更しなければなりません。第2種特別加入に加入していても従業員を雇うと第1種特別加入に変更しなければなりません。小規模な事業主にとっては、行ったり来たりで手続きが煩雑です。
小規模事業主は自らも危険な業務に従事していることが非常に多く、労働者に準じて労災保険により保護されるべき者がほとんどです。このため、第2種特別加入の一人親方、特定作業者の適用範囲をすべての業種に拡大し、第1種特別加入の対象となる事業主を包含した制度への一本化を求めます。つまり、従業員の有無にかかわらず一定の規模以下の事業所が加入できる「労働災害保険(仮称)」制度の創設を求めます。
また、特別加入制度は現在、労働保険事務組合又は一人親方等の団体を通じて加入することとなっているため保険料以外にも手続きに要する費用負担が必要になります。事業主の費用負担軽減のため事業主の直接手続きでも特別加入できる制度への改正を求めます。
また、第2種特別加入での報奨金制度を求めます。
12.飲食業、宿泊業について、個人事業所への従業員の厚生年金加入の義務付けや社会保険の短時間労働者への適用拡大に対して、中小企業への適用緩和と事業主負担分の保険料率軽減を求めます。
社会保険料は労使折半であり、コロナ禍の影響を受けている業種については、社会保険加入の適用範囲拡大についての配慮を求めます。
特に飲食、宿泊業については、従業員の厚生年金加入を義務付ける個人事業所の範囲を拡大する制度改正の本格検討に入り、令和7年の通常国会で必要な法改正を目指すとの発表がありました。
また、平成28年10月から通常の労働者と比較した場合に、1週間の所定労働時間または1か月の所定労働日数が4分の3未満の短時間労働者に対して健康保険・厚生年金被保険者に適用される制度が始まっています。これが令和4年10月以降は常時100人超、令和6年10月以降は常時50人超の事業所まで適用範囲を拡大する予定となっています。さらに勤務期間の対象が1年以上使用見込みから2か月を超えての使用見込みの労働者が対象となるなど、大幅な期間短縮がなされるものとなっています。
これらの制度改正は社会保険料の負担増加により中小企業・小規模事業者の大量倒産に繋がる可能性があります。したがって改正内容の規模要件の緩和と中小企業には、社会保険料の事業主負担の料率引下げを求めます。あわせて大企業については、事業主負担分に加え社会保険制度全体を支える「支援金(仮称)」の創設を求めます。
13.最低賃金引上げにともなう社会保険の被扶養者の所得上限(130万)及び所得税扶養控除の所得上限(103万)の引上げを求めます。
現在世界的にすすむエネルギー資源や小麦等の不足と円安による影響で物価高が進行中です。その中で最低賃金の引き上げを含む実質賃上げが社会的要請になっております。
最低賃金の引き上げは、ここ数年、政府主導ですすめられておりますが、130万や103万基準といわれるものによって最低賃金の引き上げが、パートなどの非正規労働者の所得の増加に寄与するのではなく、年間の労働時間の調整による働き方が一般化しています。つまり非正規労働者の多くは、扶養の範囲で働くのが希望であり最低賃金引上げに伴い、労働時間を減らすこととなり、ますます人手不足に拍車を掛けています。
このことは厚生年金の3号被保険者制度の見直しや女性の社会進出を促進する立場から、税制や社会保険の強制適用範囲の拡大など抜本的見直しが必要となっています。
しかし、抜本的改革はすぐにできるものではなく、国民的議論と合意が必要です。したがって、当面は最低賃金の引上げに伴う人手不足解消のため各所得上限の緩和策を求めます。
14.健康保険について、オンライン資格確認義務化の早期実現を求めます。
現在、マイナンバーカードによる健康保険資格のオンライン確認等システムの導入が進められています。このことは過誤請求の防止に役立つだけでなく、保険証の切替などにより医療機関での資格が確認できないことによる窓口での医療費全額負担をなくすことにつながり、利用者にとっても大きなメリットがあります。
令和4年5月25日現在の国のスケジュールでは、当該システム導入を義務化するのが令和5年4月から、また健康保険証発行を選択制とするのが令和6年度中となっており、将来的に保険証の原則廃止を目指すとされています。
一方で、当該システム導入に当たっては顔認証付きカードリーダーと、その他の設備(マイナンバーカード読取等のソフトウェア・機器の導入、ネットワーク環境の整備、レセプトコンピュータ等の既存システムの改修等)が必要なため、令和4年3月31日までにその両方が完了している施設の割合は22.4%に留まっています。
また、顔認証付きカードリーダーは施設によって1台から3台が無償提供されるもののその申込に至っていない施設が7.8%、その他の費用については令和5年3月までにシステム導入を完了させる事を条件として、1/2から3/4の補助を財政支援がなされているものの77.6%がシステム導入未完了の状況となっています。(※1)
令和5年4月から開始されるオンライン資格確認等システム導入の義務化には程遠い状態です。義務化をすすめるため、顔認証付きカードリーダーについては申込制ではなく配布制とし、その配布先にシステム導入事業者が積極的に導入作業を実施出来る環境づくりを国が強力に推進することが必要です。
(※1)第151回社会保障審議会医療保険部会 資料「オンライン資格確認の導入状況の把握について」より一部修正し引用
15.国民健康保険料の低所得者への負担軽減を求めます。
国民健康保険の加入者は、高齢者や自営業者、農業従事者など低所得者層が多く、低所得者に負担が大きい構造になっています。多くの自治体は保険料を「所得に対する賦課(所得割)」、「加入者一人あたりの賦課(均等割)」、「世帯あたりの賦課(平等割)」の合計としています。
協会けんぽが被保険者数に関係なく、介護保険を合わせて12.09%(半分は事業主負担)であるのに対し、年間の所得が300万円程度で、4人家族世帯の国民健康保険料が計算上所得の30%の保険料となる場合もあります。このような保険料は低所得者には負担できるものではなく、滞納を余儀なくされ国保財政を悪化させるという悪循環に陥り、市町村の財政を一層圧迫しております。抜本的には高齢者などの医療費を抑制するなどの施策が必要ですが、高齢者に対する保険料の上限額引き上げなどにより、低所得者の保険料を協会けんぽ並みの所得の12%未満に軽減されるよう制度の見直しを求めます。
16.外国人技能実習制度が労働者不足に苦しむ日本の産業を支えていることをふまえ柔軟で総合的な施策の実施を求めます。
外国人技能実習制度は各企業で外国人を受け入れ「専門技術を学び祖国へ移転する」ことを名目とした国際貢献制度ですが、同時に労働者不足で悩む産業への下支えとして大きく貢献しています。しかし現状は、行政や各企業での施策や対応が実習生に対して配慮の欠けたものになっている場合があります。技能実習生やその監理団体、また、実習機関(企業)での実質の課題に対して、必要に応じた指導や援助が反映できる縦横の垣根をなくした制度への改訂や施策の実施を求めます。
17.外国人技能実習生の必要に応じた実習作業の変更や転籍に柔軟に対応することを求めます。
新型コロナウイルス感染症の対応が長期化しており、まだまだ多くの企業が経営の危機に瀕しています。実習生の受入企業でも廃業や事業の縮小を余儀なくされる場合があります。
実習機関である企業が技能実習生を受け入れますが、企業の受け入れ態勢に制約される実習、教育となるため、技能実習生が求めていた内容にならないケースや母国の送り出し機関の求めに応じた実習業務が実際本人に向いていないケースなどのミスマッチが発生しています。
現状では別の実習作業への変更や転籍が難しく、拘束性が強いため、国際社会から「奴隷制度」と揶揄されている現実があります。監理団体の指導の下、実習作業の変更や研修先の転籍ができるよう柔軟な制度の運用を求めます。
18.外国人技能実習生の専門資格の取得や実習訓練に対する支援策の強化を求めます。
外国人技能実習制度は技能実習計画に基づき、主に職場内の実習訓練を行うことになっています。したがって高度な技能を取得してもらい母国で生かしてもらうためにも、実習計画は最低限の必須項目として、受入企業が実習生の能力や企業の教育体制に応じて充実させ、同分野の職種での教育・実習内容を拡大させることができるようにすることが重要です。また、特定技能制度で同業種での就職の選択を広くすることで、その業界は勿論、生活周辺の地域活性化に繋がることになります。
また本来、技能の習得は職場内に限定されるものではなく、社外での訓練にも拡充されるべきです。職場外教育訓練への拡充、多言語に対応した在職者訓練(ハロートレーニング)の拡充と教育訓練経費を助成する雇用関係助成金の創設を求めます。
19.市町村などを中心に、外国人労働者の地域コミュニティへの参画を促し、生活面からも支援する施策の強化を求めます。
国際交流センターなど各地方自治体で地域に居住する「在日外国人」の交流や支援が取り組まれています。外国人技能実習生を含め外国人労働者、留学生などはこのようなコミュニティとのかかわりが薄い場合が多く、企業での業務以外では非常に孤独な状況です。特に中小企業・小規模事業所で働く実習生は少人数のため、このような傾向が顕著です。受け入れ企業や監理団体と地方自治体が積極的に情報交換し、連携を密にすることにより実習生を地域の一員として支援することで地域や近隣住民とのトラブルを減少させることができます。
IV.金融政策に関する要望
20.「コロナ特別貸付」、「セーフティネット保証」の延長を求めます。
今後、新型コロナウイルス感染症による影響の長期化及び原油価格高騰などにより追加資金の調達が必要となる局面も想定されるため、迅速に資金を調達することができる貸付制度、保証制度として令和5年9月末まで延長することを求めます。
21.中小企業・小規模事業者との「対話を重視した」支援を強く求めます。
伴走型特別保証制度や経営改善サポート保証制度が創設されましたが、先行き不透明な経済情勢下の中で経営者にとっては非常に事業計画を立てづらい状況であります。金融機関等支援者の都合で計画策定するのではなく、「経営者との対話を重視し、経営者の腹落ち、納得を得た上で長期的に支援する」ことを金融機関等支援者に徹底頂くことを求めます。
22.長期資本性ローンの拡充を求めます。
「新型コロナ対策資本性劣後ローン」については、金利の低減や、協調融資時の信用保証制度の活用および返済期限の延長や借り換えが行えるように改め、金融機関が一括償還まで資本とみなす制度とすることを求めます。民間金融機関にも一層の周知と柔軟な取組みを推進するよう指導を求めます。
23.『経営者保証に関するガイドライン』の周知徹底を求めます。
個人保証に過度に依存しない金融制度の確立は、円滑な創業や事業承継、事業拡大を進め、地域経済の振興を図るうえで不可欠です。一方、「経営者保証に関するガイドライン」の利用は広がりつつあるもののまだ限定的と思われます。同ガイドラインの周知を図るとともに、「新しい資本主義のグランドデザイン」にもある「経営者保証に依存しない融資慣行」の早期確立を強く求めます。また、事業承継をスムーズに進めるため、相続時の保証継承や二重徴求等がないよう金融機関への指導強化を求めます。
24.きめ細やかな金融支援施策の拡充・強化を求めます。
実質無利子・無担保融資制度の継続、既往債務の条件変更や借り換えの促進、新継続型短期保証制度の拡充等、きめ細かな金融支援の継続・強化を求めます。
25.信用保証制度の課題解消を求めます。
信用保証制度、保証協会機能は中小企業金融において大きな役割を果たしてきました。一方、信用保証制度は一部商品を除き金融機関経由となっており協会が所有する過去の法的整理情報は永久に保存され、現制度では10年以上経過した情報も金融機関と共有されてしまいます。よって一度事業に失敗し法的整理を経験した者は、新たに起こした事業の融資も受けることが非常に困難です。事業者直接の申し込み、法的整理から一定期間経過した情報の利用禁止等、再チャレンジしやすい制度への変更を求めます。
26.金融機関(政府系含む)の謝絶理由開示の義務化と法的整理者が再チャレンジできる審査基準の整備を求めます。
金融機関(政府系含む)において融資の見送り時の理由開示の義務化及び法的整理者の再チャレンジに対する融資審査基準の明確化と現事業の評価による融資判断を求めます。
27.事業性融資の早期実現を求めます。
「新しい資本主義のグランドデザイン」で取り上げられている事業性融資は中小企業、小規模事業者にとって永年の課題でした。法制化はもちろんのこと、実際に活用される制度として本年中の実施を求めます。
V.その他要望
28.特別定額給付金等の給付金申請窓口のサポート体制強化を求めます。
市区町村等の窓口において、銀行口座を持たない申請者のサポート体制の強化を求めます。
29.家賃支援給付金の給付期限の延長を求めます。
コロナ禍により事業を再開することができない事業者に対して、9か月が上限の家賃支援給付金の支給期間の延長を求めます。
30.今後建設する商業用施設に対するコロナ感染症対策設備への助成金の創設を求めます。
今後、建設される商業用建設物の全施設の空調設備について、感染症対策設備への助成金の創設を求めます。
31.給付金等の質問事項に対するAIチャットボットの充実を求めます。
各種給付金等の質問事項に係る問い合わせに対し、AIによるチャットボットを充実させることによって、問い合わせ窓口の負担軽減と手続きの迅速化を図ることを求めます。
32.宅地建物取引業法の一部改正を求めます。
大手不動産業者との取引で媒介契約の書面を作成することなく口頭での依頼にとどめ、成立した場合に書面がないことを理由に支払いを拒否するケースが見受けられます。媒介業者が小規模事業者の場合、泣き寝入りを余儀なくされているのが現状です。このような優越的地位の乱用を取り締まることができる法律への改正を求めます。まずは、現状の実態を調査することを強く求めます。
33.相続時における被相続人保有の郵便貯金について、死亡解約の現金引き渡しから、相続人保有の銀行口座への直接振り込みシステムの構築を求めます。
現状、被相続人が郵便局に保有する貯金については、被相続人が死亡したあと、相続人が総合口座を保有していない場合はいったん解約がなされ、相続人に対し、現金で渡すことになっています。これは、相続人にとって現金の搬送リスクが高く、犯罪に見舞われる可能性もあるため、相続時に限っては相続人が保有する銀行口座に上限無く振り込む手続きを構築することを求めます。
34.プライバシーマークの申請、更新において審査の都度、審査員の宿泊代や交通費を対象企業に負担させている現状を改め、申請料や研修費(現状、外部研修は無料実施)に含めて請求すべきことを求めます。
経済産業省が管轄するJIPDEC(一般社団法人 日本情報経済社会推進協会)が認可するプライバシーマークの申請、更新において、審査員の実費は(宿泊代や交通費)対象企業に別途負担をさせている現状を改め、Pマークの申請、更新料や無料で行われている研修会の料金に配分し、対象業者の地域間による負担格差の解消を求めます。
35.運送業(トラック・タクシーなど)への燃料高騰時のサーチャージ制度の導入を求めます。
安全運行の観点から航空業界のような基準を決め、燃料高騰時のサーチャージ制の導入を求めます。
36.建設業許可申請における事業承継制度(法人成)について認可申請事項の改善を求めます。
建設業許可を個人で取得していた事業者が法人成りで許可の事業承継制度を利用する場合に、社会保険の加入と許可の承継制度において矛盾が発生しています。個人許可を利用して事業譲渡日まで営業した場合、個人営業時に加入している建設国保に継続加入(法人設立後2週間以内の手続き必要)することができなくなる現状を踏まえ認可申請事項の改善を求めます。
37.金融機関における、相続時に必要な各種証明書の発行年月の期間制限に統一性を持たせることを求めます。
相続時に必要な各種証明書の発行期限について金融機関でバラつきがあるため、統一性を持たせることを求めます。また、法定相続情報証明制度を活用した手続きの迅速化を図ることもあわせて求めます。
38.給付金等の不支給が決定された際の理由開示の義務化を求めます。
持続化給付金等の不支給が決定された際の理由開示の義務化を求めます。
39.円安、原油価格高騰等により中小企業・小規模事業者へしわ寄せを防止するための監視強化と実態調査および対策の実施を求めます。
材料高騰等の影響を受けた下請け事業者へ適切に価格が転嫁されているのか実態調査と監視の強化を求めます。
40.所在不明株主からの株式取得についてスピーディーに行えるような制度の創設を求めます。
所在不明株主からの株式取得には、5年以上の期間を要するのが現状です。M&Aや事業継承を活発にするためにも所在不明株主に対する株式取得手続きの期間短縮を求めます。旧商法では発起人7人を要し法人が設立されていたことからこのようなケースは少なくないのが現状です。
41.各種支援金等の申請において売上集計を要件とする際、医療者については3か月とする制度での実施を求めます。(最終的には期間延長実施)
医業者の売上集計は制度上、約2か月後となるため申請期限が2か月の各支援金について、時間的猶予が非常に少なくなっています。エッセンシャルワーカーであり、国民を支える主たる医業者への配慮が必要であります。また、他の業種業態でも同じようなケースが見受けられることが想定されることから申請期限については業種業態で不利益にならない柔軟な設計を求めます。
42.ITを利用できない方に対する十分な支援制度を求めます。
今日、デジタル化社会が日進月歩で進化する中、ITに精通していない方はどんどん取り残されており、非常に危険な状況になっています。ATMでの詐欺被害もIT化の産物です。行政サービスでも支援金申請等で本来支給対象である者が、操作がわからないため申請ができなかったり、操作を間違えて不支給になったり、人に頼ることによる詐欺被害も想定されます。ITに精通していない方でも安心してあらゆるサービスが同じように受けられる体制の構築を求めます。